英語学習にも生かせる脳科学〜「こころ」の働き編~

なみのリズム、ウェブマスターのシンです。

前の記事「英語学習にも生かせる脳科学〜聴覚のしくみとリズム編~」では聴覚のしくみを追っていき、音の要素「リズム」と聴こえの関係を考えました。

今回は、「こころ」の動きを神経科学のわかっていることで紹介し、「聴こえる」ということを考えてみたいと思います。

「こころ」というと、大きく深淵なテーマですが、その全てがわかっているわけではなく、さらにここではそのごく一部を見ることしかできません。すごく興味深いテーマであると思うので、もし関心のある方は、「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」 (ブルーバックス)を読んでみて下さい。「こころ」の科学について、この本から多くを参考にしています。

では、いきましょう。

目次

  1. 聴覚のしくみの簡単なおさらい
  2. こころの動き
  3. こころのあり方
  4. 聴こえる力を高める

1.聴覚のしくみの簡単なおさらい

英語学習にも生かせる脳科学〜聴覚のしくみとリズム編~」で、音の発生から脳の認識に至る聴覚のしくみについて説明しました。

聴覚は、キャッチした音を周波数別に分解して神経に伝えます。そして、脳の部分をリレーで送られながら(投射という言葉を使いました)、さらに副神経から全身に情報が送られ、全身からのフィードバックも統合しながら、階層的に高度な処理がなされて最終的に前頭葉で認識に至る、という流れでした。

人間の脳は、他の生き物に比べ側頭葉と前頭葉を合わせた大脳が非常に発達しています。言葉を操ることができる能力は、まさに大脳の発達によるものといえます。

では、「こころ」はどうなのでしょうか?ズバリ言うと、人間以外の動物にも「こころ」はあります。それどころか、植物にも意識があるという研究も出てきていて、後に述べる「こころ」とは?ということを合わせて考えると、植物にも「こころ」はあると言ってもよいように思えてきます。この話は、スゴク興味深いのですが、あまりに脱線しすぎなので踏み込むのをぐっとこらえて深入りはしないでおきます。

で、動物の「こころ」に話を戻します。犬や猫、小鳥などペットと一緒に暮らしている方も多いと思います。例えば、わんわん(犬)を見ていると、確実に「こころ」があると思えますよね。犬の大脳は人間ほど発達していませんが、上図と同じような流れで音を認識しています。実際、わんわんは、あなたの足音が誰のものか分かっています。わんわんは、あなたが家に帰ってきたとき足音に気づき、大喜びで「おかえり」と表現しながら、あなたが目の前に現れるのを待っているはずです。こんなに親密な犬よりももっと大脳が発達していない爬虫類なんかも、実は「こころ」があります。

ここまでのところで、図の中ほどまでの経路に注目しましょう。蝸牛神経核から中脳にかけては脳幹という箇所になります。脳幹と全身の情報のやり取りと小脳を加えた情報のループ(相互関係)に、「こころ」を形作る基がありそうな気がしてきませんか?もちろんここでは、まだ科学的にわかっていない部分、すなはち霊性とか魂とかそういったことは考えないでおきます。

2.こころの動き

情動とは

いよいよ「こころ」の謎に迫っていきます。先にも述べた通り、「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」 (ブルーバックス)を参考にしています。

「こころ」を考えるとき、意識とか理性とかに加え「感情」を抜きにするわけにはいきません。ここで感情に対して神経科学で使う「情動」という言葉の使い方に触れておきます。人は喜怒哀楽を代表に、それだけでなく高揚や恐怖、安心や不安など様々な状態が入り混じった複雑な感情を持っています。

ある複雑な感情が起こった原因を考えてみると、一つでないことが多く、それならまだしもたくさん挙げた原因の候補がその感情に対して影響を与えていない、原因ではなかったということが起こりえます。

科学者はこういった理解できないもの(こと)を使いたくないので、「感情」を科学的に理解できるように置き換えた概念が「情動」です。

人であれ犬猫であれ対象となるものが、何か外からの刺激を体験したときの精神状態(情動体験)とそれに伴う行動や生理的な変化(情動表出)を合わせて「情動」といいます。

情動と脳での認識

何かからの刺激に対する「感情」は難しすぎて分からないので、情動表出を見ることで情動を客観的に調べようということです。

それはどういったものでしょうか?

例えば、夏の夜、少し涼しくなったからリラックスして読みたかった本を読み始めたとき、プーンという甲高いうなりのある羽音が聞こえてきました。不快な気分になり、もうリラックスどころではありません。ストレスが高まり、他の何をする気もおこらず、羽音の主=蚊を退治するか羽音が聞こえないところに退避するか対応を迫られるはずです。

また例えば山道をトレッキング中、道脇の草の中でサーーサーみたいな何か引きずるような音がしました。あなたは、一瞬ぴくっとして立ち止まり、音のする方を恐る恐る見てみると、大きな黒っぽいヘビが。もしヘビが好きでないのなら(多くはそうだと思います)、怖くて背筋が冷たくなる感覚とともに、一瞬その場に固まって動けなくなると思います。

どちらの例も、音の主を認識するより先に身体からの反応が現れます。続いて音の主が何であるかを認識し、次の身体の反応が起こっています。その身体の反応を認識し、また次の思考が現れてきます。感覚からの刺激に対して、身体の反応と脳の認識の間で情報が行ったり来たりしながら刺激への対応に至っていることがわかると思います。

身体の中では、刺激に対して、筋肉収縮、心拍上昇、ホルモン分泌など忙しく反応しています。さらに、「蚊に刺されるとかゆくてとても不快」とか「サーーサーという草むらを移動する音はヘビかも」とかといった記憶からの情報も加わり、次にどうするかを考えて、さらにさらにその考えに身体も反応している・・・という自分を発見することができるはずです。

これが、情動体験と情動表出の一例です。ここでいう情動の周辺で起きている「実際のわたしやあなたの細かなアレコレ」が、現実の私たちのもつ感情だといえます。しかし、それぞれのアレコレを考えていたのでは膨大な情報になりすぎて手に負えないので、パターン化し因果関係があるものとして、よくわからない「感情」をわかる範囲にザクっと分けたのが「情動」です。

さて、「不快」「怖い」は感情です。この感情はどうやって生まれているか、2つの例を見てみると刺激に対する無意識の身体の反応と脳での認識の間での情報のやり取りによることがわかります。

感情を考える際、外部からの情報が、好き嫌いという1軸(X軸)の2項対立ではなく、状況がコントロールできるかという軸(Y軸)とどのくらい顕著(Z軸)かという軸を加えて3軸で見ることでより理解しやすくなります。

例えば、「すごく好き」の反対は「すごく嫌い」になると思えますが、どちらも「すごく」という自分でコントロールでできないというY軸での位置と、顕著さのZ軸は同じです。3軸で考えると「すごく好き」の反対は、嫌いでコントロールできて顕著でない「無関心」ということになります。

 

話を情動にもどします。先の2つの例は、大きくはないですが生存に必要な反応といえます。実は、意思の力・論理的な判断よりも情動による力すなわち感情による力の方が強いのです。

3.こころのあり方

記憶

単純な例を使って情動と脳での認識が「こころ」の基になりそうだということを示しました。次にもっと高度なところを見ていきたいと思います。

人間は社会を発展させ、非常に高度な認識力を使うようになりました。しかし、本能的に備わっている情動の働きはとても強く私たちを支配しています。社会性をもった人間の「こころ」の基として脳の働きは重要ですが、脳での情報処理に必要不可欠で複雑な要素「記憶」についてみていきましょう。

記憶は、大きく「陳述記憶」と「非陳述記憶」に分けられます。

陳述記憶」は言葉に置き換えて引き出せる記憶です。これは、言葉を使えない動物にも備わっていて、人は陳述記憶を言葉で表現しているといえます。

非陳述記憶」は言葉で置き換えることができない記憶で、無意識に成立している記憶も含まれます。「非陳述記憶」の代表例が「手続き的記憶」と「情動記憶」です。

「手続き的記憶」は、練習によってできなかった運動ができるようになるとか、楽器の演奏がうまくなる、などといった無意識下で実行される(身体が勝手に反応する)記憶です。

「情動記憶」は、一つには手掛かりによる条件付け記憶があります。これは、本来「恐怖」などの感情とは関係のない感覚の例えば鈴の音、などと暗闇に不気味な影が近づいてくる「恐怖体験」とを繰り返すことによって刷り込まれる記憶です。この場合、昼間でも同じ鈴の音がすると「恐怖」を感じてしまうと思います。ちょっとコワすぎ、体験したくないです、違う例にすればよかったかな。

この記事では「恐怖」感情をたびたび使っていますが、それは恐怖は生存に関し最も強い影響をもつ感情だからです。

先に見た、「情動と認識の相互作用」の中で記憶されるのが「情動記憶」です。蚊がうっとおしいのも、ヘビが怖いのも情動記憶によります(ヘビが怖いについては本能もあるでしょう)。地震などの大災害による心的外傷後ストレス障害(PTSD)などは、情動と認識のループがどんどん強化されてとても強い情動記憶が奥底まで刻まれた状態といえます。

ストレスホルモンが分泌されると、「陳述記憶」が抑制され「情動記憶」が強められることがわかっています。「情動記憶」は生存本能に直結しているために非常に強力で、「陳述記憶」で書き換えることが容易ではありません。このことからも、大災害による情動記憶がとても深刻なPTSDになることがわかると思います。

報酬系

次に、主に喜びの感情をもたらす報酬系を見ていきましょう。やっと喜びです、ふう。でも科学的な記述ばかりになり、読んでいて「喜び」の感情を起こすことはないとだろう思います。でも、喜びも科学なんだよというような極端なことではないです。あしからず、ご容赦ください。

喜びの感情は、脳にドーパミンが放出されることによって快感として得られます。いやまあこれも、科学的にわかっていることで表現したにすぎず、もっと複雑な感情の現れのアレコレは考えないで話を進めています。

一つの経路には、生存に関する満足、例えば食欲や性欲が満たされたときのドーパミン放出があります。これは前頭前野にドーパミンが放出されたとき「主観的な快感」を強化することで得られます。

別の経路では、側坐核にドーパミンが放出されます。これにより、「その結果のもとになったと脳が判断した行動」が強化されます。この2つの経路により動物や私たち人間は、「主観的な快感」を得たから何かにやみつきになるのではなく、「快感のもとになった行動」が強化されてその行動に病みつきになるのです。ちょっとややこしいですね。例を挙げてみてみましょう。

狩猟生活を送っている時代に生きていると仮定します。

獲物を求めていろいろなところに出向くわけです。あなたはふと、少し遠くて仲間内では獲物がいないとされている場所に行ってみました。すると、それまで見たこともないほど多くの獲物に出会うことができました。しかも狩りのしやすい格好の地形です。

さてこの場合、「主観的な快感」は見つかるはずのない場所にたくさんの獲物がいたことです。「快感のもとになった行動」は、獲物がいないと経験的にわかっている少し遠い場所で獲物を探すという行動です。今まで獲物はいないとされていたところ(しかも少し遠いところ)にも獲物がいることがあり、しかもたくさん集まっている、という新しい考え方が得られたわけです。

この報酬系の仕組みがあることで、新規開拓への情熱が生まれるのです。

また、ギャンブルを例にするとわかりやすいです。「報酬予測誤差」といって、ある賭けに勝てば30得られると予測して賭けたところ、60得られたとします。予測より大きな報酬が得られたため、この行動に病みつきになってしまう、という例です。

先の獲物探しと合わせると、大穴狙いに病みつきになる心理があることがわかると思います。

いままでの例とは逆に、恐怖などの情動体験や報酬系の働きなど情動を高める環境因子(刺激)が少ないとき、「リラックス」した状態になります。

こころのあり方

結論として、「こころ」の基になっているのは、環境因子に対する情動と脳の認識の反応、記憶の影響、身体の反応(副交感神経や内分泌系など)、報酬系の反応、などが複雑に組み合わさって現れるもの、ということです。もちろん、ここまででわかっている範囲での結論です。

現代に生きる私たちは、狩猟の獲物を探すわけではなく、日々生存の恐怖に怯えているわけでもありません。しかしこれらは形を変えて、社会の中で生きる私たちに様々な喜びや恐怖感となって存在しています。こころのあり方も複雑になっていて、うまく自分のこころと付き合っていくことが大切です。でも大丈夫、こころは日々成長していて、学習などにより変化させることもできるのですから。

今回の記事で言ったことの続きとなる、英語学習にも生かせる脳科学~社会の音と共感性編~は、別の記事で書く予定です。今度はもう少し文系的な内容です。

4.聴こえる力を高める

最後に、せっかくなのでここまでの内容から英語リスニングに役に立つことを導いてまとめにしたいと思います。

先にも出した以下の図で、情報(情動と認識)のフィードバックループに注目しましょう。脳での認識と身体の反応が相互関係を持ちながらより高度な認識に向かっています。リズムは、「英語学習にも生かせる脳科学〜聴覚のしくみとリズム編~」で脳の最初の認識箇所となる蝸牛神経核で処理されるといいました。

つまり最終的に前頭葉で言葉の高度な統合と認識がなされるまで、リズムはずっと音としての言葉に埋め込まれていて、すべての経路を通過するということです。そう、リズムは脳だけでなく全身に伝わる音の性質なのです。

そこで、英語のリズムを身に付けるために、「非陳述記憶」の「手続き的記憶」を使うことを考えましょう。早い話が、「確かなリズムをしっかり練習しましょう」ということです。う~ん、当たり前すぎる。

では次、知識欲に訴える報酬系を使うことを考えましょう。すなわち、「聞き取れなかった音が聞こえるようになった」知識欲が満たされたという「主観的な快感」を得るため、「快感のもとになった行動」を「手続き的記憶」で行えばよいのです。つまり、しっかりリズム練習して、英語リスニング力がアップし聞こえる音が増えた快感を得ればよいのです。う~ん、これも当たり前すぎる。

当たり前すぎですが、ここまでしっかり読んでくださった方にはこの重要性が分かっていただけたと思います。

英語のリズムを身に付ける練習法は

英語リスニングの悩みを解決!リズム音読とは?

参考図書

「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」 (ブルーバックス)

アマゾン広告